【短編】冷酷な旦那様が恋に落ちたのは、離婚を申し出た花嫁でした。


そのひとつひとつの仕草に振り回されっぱなしの私は、頷くしかできなかった。



「……承知、致しました」


「分かれば良い。……それより、稽古の時間はいつからだ?」



満足そうに頷いた旦那様は不意にそう聞いてくる。


一瞬にして、色んなことが起こりすぎて稽古のことをすっかりと忘れていた。旦那様に言われて、はっと顔を上げる。



「わ、忘れてました!今から稽古場に向かうので、旦那様はあとからいらっしゃってください!それでは!」



ここぞとばかりに早口でまくし立て、そそくさとこの場を去ろうとする。



「ちょ、おい。あまり急ぐと転ぶぞ!」



後ろから旦那様の声が聞こえた気がしたけど、振り返らずに前に進んだ。


だって、この顔を見せたくなかった。


こんな、こんな……。



「旦那様の、馬鹿。なんで私をこんなに……」



赤く、熱く染まった顔を見せるわけにはいかなかった。