そのひとつひとつの仕草に振り回されっぱなしの私は、頷くしかできなかった。
「……承知、致しました」
「分かれば良い。……それより、稽古の時間はいつからだ?」
満足そうに頷いた旦那様は不意にそう聞いてくる。
一瞬にして、色んなことが起こりすぎて稽古のことをすっかりと忘れていた。旦那様に言われて、はっと顔を上げる。
「わ、忘れてました!今から稽古場に向かうので、旦那様はあとからいらっしゃってください!それでは!」
ここぞとばかりに早口でまくし立て、そそくさとこの場を去ろうとする。
「ちょ、おい。あまり急ぐと転ぶぞ!」
後ろから旦那様の声が聞こえた気がしたけど、振り返らずに前に進んだ。
だって、この顔を見せたくなかった。
こんな、こんな……。
「旦那様の、馬鹿。なんで私をこんなに……」
赤く、熱く染まった顔を見せるわけにはいかなかった。



