「なあ、お前って彼氏いたことあるの?」

隣に座る幼なじみの彼が、スマホから視線をそらさずに訊いてきた。

「はあ? 急になによ」

私も同じく、スマホをいじりながら投げ返す。

「お前のそういう話聞いたことないからさ」

「いや……ない、けど」

「そっかー」

雑な返事だなあ。それは私もだけど。

彼女になりたいって思う男の子なら、ずっと前からいる。

だから高校二年生になっても、いまだに彼氏はゼロ。

「じゃあ、俺と付き合う?」

そのひとことで、思考回路が一瞬とぎれた。

「……はあっ⁉︎ な、なに言ってるの。あんたとなんか、付き合いたくないわよ!」

「ひどーい」

ケロっとした顔で言われてしまった。

ずっと好きなのに、付き合いたくないだとか。

この口は思っていることを素直に言ってくれない。

「あ、そうだ。今日、何日か知ってる?」

話題があっちこっち飛ぶのは、彼のいつものこと。

冗談だってわかってるのに、さっきの魅惑的な微笑みに心を振り回されてしまう。

ドキッとしちゃって、スマホを手から落としかけた自分がバカみたい。

「ええ? さんが……じゃなくて、四月一日だけど」

「ふーん? へーえ? ほーん?」

「めっちゃうざー……」

言葉ではそう言うんだけどね。

ニヤニヤとなにか企んでいる顔でも、好きな人の顔は特別なのだ。

「じゃあ、さっきのは逆の意味で受け取っていいってこと?」

「はい?」

「『あんたとなんか付き合いたくない』ってセリフ」

淡々と言われたらなんか腹が立ったけど、この先に私が言うべき言葉が、思いつかない。

「今日は四月一日、なんでしょ?」

彼の策に、まんまとはまってしまった。

そういうことか。

あせる頭で言い訳の言葉を考える。

けれど、こうとなれば、もう素直に白状してしまおう。

不思議なあきらめの感覚に包まれた。

ヤケになってるような、緊張して勇気をふりしぼっているような、ごちゃ混ぜの感情。

「……まあ、構わないけど」

「素直じゃねー」

本当、あんたの言う通りだよ。

……ぜんぜん、素直に白状なんてできてないじゃん。

「ま、そういうとこ『も』好きなんだけどね」

彼に顔をひきよせられ、額にちゅっとキスされた。

離れて見えた彼の顔に驚く。

いつも強気で、素直じゃない君なのに。

その頬が桃色に染まっていたから。

素直になれなかったのは、どうやら私だけじゃなかったらしい。