「ん……?」
眠っていたのだろうか。
私の、ベッド……?
ぼんやりとした頭で薄く目を開けた私は、自分の体の下にある柔らかい感触に眉をひそめた。続いて、自分の体勢がおかしいことに気づいてぎょっとした。
何、これ。どうして私、宍戸の上にいるの……。
動揺していると、宍戸の声が頭の上の方から聞こえてきた。
「やっと起きたか」
「あ、あの……」
至近距離に宍戸の顔がある。私は慌てて体を起こして離れると、恐る恐る彼に訊ねた。
「えぇと、これはどういう……?」
宍戸もまた体を起こしながら、顔中を苦々しい笑みでいっぱいにした。
「覚えてないのかよ。酔っ払いのお前を店からなんとか連れ帰って、やっとベッドに寝かせたと思ったら俺に抱きついてきて、そのまま離してくれなかったんだよ。ま、そんな長い時間じゃなかったけど」
「えっと、あの……」
店を出た辺りまではなんとなく覚えている、ような気がする。その後の記憶は、ない……。
失態。恥ずかしすぎる――。
ベッドに腰掛けたまま顔を覆っていたら、宍戸の声が間近に聞こえた。
「岡野」
「ん?」
聞き返して顔を上げると同時に、私は宍戸に押し倒された。
「……やめて」
「いやだ。限界」
そう言って宍戸は私をぎゅっと抱き締めた。
逃げられない。宍戸の体の重みで動けず、私は硬直したまま天井を見上げた。
「岡野、今日はものすごいハイペースで飲んでたよな。帰りは足元すっごくぐらついててさ。あんな飲み方する岡野を見たのは、たぶん初めてだ。――もしかして、やっと補佐に振られた?」
やっとという言い方にカチンとして、思わず言い返す。
「違う」
「じゃあ、あれか。まだ返事をもらえていなくて、悶々としてるってやつか」
鎌をかけられただけだったのかもしれない。それなのに、私はぴくりと反応してしまった。
「当たりか」
私は横を向いたまま、つぶやくように言った。
「返事は少し待って、って言われた……」
「なんだよ、それ。ただイエスかノーの二択しかないだろ。なんで時間が必要なわけ?」
「どうして宍戸が怒るの?」
身の危険を感じるようなまずい状況にあるのに、私は不思議に思って宍戸に訊ねた。
宍戸は私の肩に顔を埋める。
「そんなの、岡野が好きだからに決まってるだろ。お前の傷ついた顔なんか、見たくないんだよ」
何、それ――。
優しく言われて、涙が浮かんできそうになった。気持ちが不安定になっているせいだ、お酒を飲みすぎたせいだと自分に言い聞かせ、涙が流れ落ちないように我慢した。
宍戸は私から離れ、両腕を突っ張って体を起こした。膝を折って、私の上に覆いかぶさる。
「俺だったら、お前にそんな顔はさせない。させないように努力する。これ以上ないってくらい、とことん甘やかしてやる。最初は補佐の代わりだってなんだっていい。いつか俺だけしか目に入らないようにしてやる。補佐なんかやめて、俺を選べよ」
宍戸の甘くて熱い言葉に、心が震えた。このままイエスと頷けば楽になれる――心の片隅でもう一人の自分が誘惑するように囁く。
補佐のことは、もう諦めた方がいいのだろうか……。
私はぎゅっと目を閉じた。涙が落ちた。
宍戸は私を大切にしてくれると言っている……。
「岡野……」
宍戸の吐息を首筋に感じて、私はぴくりと肩先を震わせた。
彼の唇が、まるで壊れ物でも扱うような優しさで、私の額、瞼、頬に触れていく。
これでいいの?本当に……?
宍戸の指が躊躇うように私の唇をなぞった時、私の口からその名前がこぼれ落ちた。
「補佐……」