私が言っていることは本当だと、補佐は分かってくれただろうか。私は心配になって、おずおずと彼を見た。
補佐の表情は穏やかで、微笑みを浮かべていた。
「分かっているよ。岡野さんが、俺たちの会話のどの辺りを聞いてしまったのかも、だいたい見当がついてる。それで?白川さんと話をしたにも関わらず、どうしてまだそんな顔をしているんだ?いったい何がそんなに引っ掛かってるの?今日一緒にいて、ずっと晴れない表情をしているように見えたから、気になっていたんだ」
私は言葉に詰まった。あの日、遼子さんの話を聞き終えて、その通りなのだろうと納得しようとした。けれど、補佐の本心については疑っていた。遼子さんは、お互いになんとも思っていないと、きっぱり言い切ってはいたけれど。
「また何か色々と考えてるね」
補佐は苦笑を浮かべると、手元のペットボトルに目線を落として言った。
「彼女にとって、俺は恋愛対象外だったっていう話は聞いた?」
「えっと……」
私は口ごもった。補佐自ら、その部分に触れてくると思っていなかった。
私のそんな反応を見て、彼は悪戯っぽく笑った。
「それじゃあ、白川さんから振られた話は?」
「はぁ……」
私は曖昧に言葉を濁した。
「本人を前にして答えにくかったかな。でもその反応からすると、もう知ってるようだけど」
あはは、と彼は笑う。
「昔そういうことがあって、俺は見事に振られてしまったわけだ。そして彼女は、その頃からの恋人と、今度結婚する。俺が白川さんを好きだったことは会社では誰も知らないし、今さら知られたくもないから、あの時偶然会った倉庫で、お祝いの言葉を伝えたんだよ。前に振られた時はバッサリ斬られたから、その仕返しに嫌味のひとつも冗談で言ってやろうかな、なんて思いながらね。あぁ、別にフラれたことを根に持ってるわけじゃないからね」
最後のひと言を、補佐はにっこりと笑いながら口にした。
「彼女に恋愛感情を抱いていたのは過去のことだよ。今では頼れる大切な同僚だ。白川さんには、幸せになってほしいと思っているよ」
そう言うと、補佐は私の顔を覗き込んだ。
「これでもまだ、岡野さんの気持ちの中の引っ掛かりは取れないかな?」