それから数十分後。
私たちは、アパートからさほど遠くない場所にあるファミリーレストランにいた。その前に向かった喫茶店は、満員のため入れなかったのだ。
「結局ファミレスになってしまって、ごめんね」
「いえ。私、ファミレスって好きなんです。気楽な感じで」
私は辺りを見渡した。ファミレス特有のがやがやした空気にホッとする。ぎこちない私たちには、これくらいの賑やかさがちょうどいい。
料理を注文し終えて、私はそっと補佐の様子をうかがった。勢いで話をしてみたいと言ってはみたものの、どんな風に話し出せばいいのか、きっかけがつかめないでいた。
けれど、そんな心配はいらなかった。そもそも相手はトップ営業だ。話題豊富な彼のおかげで私の緊張は解けて、気がつけば私は彼との会話を楽しんでいた。
その流れの中、たまたま会社の話題になった。補佐が思い出したように言う。
「――白川さんとはうまくやっているようだね」
その名前を聞いてどきりとしたが、私はその動揺を隠して頷いた。
「はい、いつも優しく教えて下さいます。時々はご飯を一緒に食べに行ったり、本当に仲良くしていただいて……」
「彼女は面倒見がいいから、困ったことがあったら何でも相談するといいよ」
「はい」
私は笑顔で返事をしたが、胸の辺りはもやもやしていた。遼子さんのことを話しているこの時、補佐の言葉の中に特別な響きを感じたからだ。
やっぱりあの「りょうこさん」は、遼子さんのこと……?
私の脳裏に昨夜のことが浮かぶ。補佐が見ていた夢の中身が気になって、上っ面な笑顔しか作れなくなった。
「岡野さん、どうかした?」
訊ねられてはっとした。私はにこっと笑う。
「なんでもありません」
けれど補佐は私の顔じっと見た。
「そうは見えなかったけど。何か心配事でも?」
「本当になんでもありませんので……」
補佐の心配をかわすように、私は軽く目を伏せて、グラスに挿したストローを弄んだ。
「そう?」
補佐は私の顔をしげしげと見ていたようだったが、しばらくすると笑いを含んだ声で言った。
「岡野さんってさ」
ちょうどその時、近くの席にいた小さな子供たちが喧嘩を始めた。その賑やかさに、補佐が言おうとした言葉の続きがかき消されてしまった。
そのことを残念に思った私は、身を乗り出すようにして補佐に訊ねた。
「今なんておっしゃったんですか?」
「たいしたことじゃないよ」
補佐は笑って私の質問をはぐらかす。
その表情の中に照れ臭さがのぞいて見えたような気がして、私は余計に気になった。しか、さらに重ねて問うのはやめた。しつこい女だと思われたくはない。