「かんぱーいっ」

 三十人弱の声が一斉に鳴り響く。

 私達が一年間共に過ごした仲間達が、今日は集まっている。

 なんたって、今日は中学校の卒業の打ち上げだから。

 「んじゃあ早速何する?」

 「よっ、学級委員長!」

 「何か一言お願いしやーす!」

 ――サラッと靡く前髪、ガラスのビー玉のように透き通った瞳、太く芯のある、けれど優しい声。

 三年五組学級委員長、また私の幼馴染といえる、吉塚 優弥(よしつか ゆうや)

 「……こういうの、苦手なんだけど」

 「まあそうだよな。吉塚、誰も学級委員なりたくなかったから無理矢理だもんな……」

 「でもなんだかんだ楽しかったよね、吉塚くんが学級委員でクラスまとまってたし。ね、帆菜(はんな)

 親友の坂原 奈子(さかはら なこ)に、突然話題を振られて驚いた。

 「……まあ、ね」

 ……動揺しすぎてしまっただろうか。

 ――私は、優弥に片思いしているから。

 「ていうか、神崎(かんざき)と吉塚って幼馴染なんだよな? 付き合ってるん?」

 よく疑われる。私と優弥はある意味とても仲が良いから、恋人同士じゃないのか、と。
 けれど違う。幼馴染の腐れ縁、みたいなものだ。

 一方的に私が好いているだけ。胸が苦しくなるけれど、優弥は私のことをただの幼馴染としか思っていないのだろう。

 「だから付き合ってねーって。大体、帆菜みたいな口悪いやつ、好きになんねえし」

 「はあ!? あんただってただの悪ガキだし、もう獣みたいなものでしょ」

 言ってからハッ、と気がついた。今は二人きりじゃなく、大勢のクラスメイトがいるのに。

 ……いつもの日常を曝け出してしまった。

 「ぶはっ、本当二人仲良いな」

 「なーんか低レベルの争いしてるな」

 最ものことを言われ、口を閉じる。

 はあ、どうしていつも反論してしまうのだろう。素直に、なれたらいいのに。

 「うめえー、この酒」

 「酒じゃないでしょ、これオレンジジュースよ」

 ドッ、と笑いが起こる。ああ、これが青春か、と思う。

 ――皆で会うのはきっと今日が最後。楽しまなきゃ、と思っても寂しさが溢れてくる。

 「本当に、このクラス団結してたし楽しかったね」

 「まあな。最初は喧嘩とかあったけど全然無くなっていったし」

 「……皆、高校でも頑張ってね。また、絶対集まろうね」

 奈子がそう言った。けれどその“絶対”は来ないのかもしれない。

 高校に行ったらきっと、本当に会うことが無くなると思う。やはりそう考えると、孤独な気持ちになった。

 ありがとう、またねを全員に言って、私達は解散した。……優弥とは同じ高校に進学することになった。たまたま私達は希望の高校が同じになり、入試も合格。

 ――嬉しかった。離れ離れにならなくて本当に良かった。

 「あっ、帆菜」

 いつもの大好きな人の声が聞こえた。振り向くと、優弥がただ一人で立っていて、何が言いたげな顔をしていた。

 「春休み、空いてる日ある?」

 思考が止まった。

 どういうこと……? 

 「えっと、何で?」

 「おばさん、四月三日誕生日だろ。プレゼントあげたいからいつも一緒に選んでくれたじゃん」

 ――そうだった。私のお母さんの誕生日がもうすぐ。

 毎年、優弥はプレゼントを買ってくれる。生け花とか、お菓子とか。そういう優しさにも私は惚れた。

 「そっか、いいよ。何日がいい?」

 「ん、三月は厳しいな……四月一日はどう?」

 私はスマートフォンのカレンダーのアプリを開き、予定が入っていないか確認した。

 空白だったから一安心。

 「空いてるよ」

 「よし、その日にしよ」

 ――やったあ、と思った。お母さんへのプレゼントを買うとはいえ、二人で出かけるのだから。

 優弥のことを好きになったのは、去年の四月頃だった。優弥が学級委員になってクラスをまとめたり、学校をより良くする為にいつも一生懸命な姿を見て、いつの間にか好きになっていた。

 今年もこの時期にデートできることが嬉しい。

 ……そういえば、エイプリルフールの日だ。

 ――少しだけ、頑張れたらいいな。