「はーあ、疲れた〜」

 私は自習室で大きく伸びをした。
 ちょうど今、宿題が終わったのだ。

 私が通う私立星谷学園(ほしやがくえん)は、超難関高校だ。
 だから当然、勉強が難しいわけで。
 私は毎日出される宿題にひーひー言いながら過ごしていた。

 でも。
 それでも私は、この学校に通いたい理由がある。

 それは、私が大好きな彼氏がいるから。

 私の彼氏は頭が良くて、これほどの難関校をスマートに突破して見せたんだ。
 …それに比べて、私は合格ギリギリ。
 私はどうにか彼に追いつきたくて、毎日必死に勉強していた。
 いつか絶対に、彼に釣り合ういい彼女になりたいからね!

「花江」

 静かな声が自習室に響いた。
 振り向くと、そこにいたのはーーーー

 信じられないくらい、顔が整った男の子。

 節目がちな目はまるで全て理解しているような余裕を持っていて。
 すっと通った鼻筋、形が綺麗な唇。
 真っ黒な髪の毛は、艶を帯びて輝いていた。

 そんな美男子の彼の名前は如月麗央(きさらぎれお)くん。

 信じられないけど私のーーーー彼氏だ。

「麗央くんっ!」
「花江、毎回言うけど、あんま無理すんなよ」

 私が弾んだ声を出すと、麗央くんは静かになだめた。
「ご、ごめん…」
「あと、腹減ってるんじゃねーの?」
「あっ…」
 タイミング悪く、私のお腹がぐぅ、となった。
「やっぱりな。ほら、これ」

 そう言って麗央くんが差し出したのは、ドーナツ屋さんの箱。

「え⁈ドーナツ⁈」
「ああ。腹、減ってるだろ?」

 私は嬉しくて思わず笑みをこぼした。

「ありがとうっ、麗央くんっ!」

 私が言うと麗央くんはなぜか頬を少し赤く染めた。

「べ、別に…これくらい、いつでも買ってきてやるよ」
「え⁈いいの⁈」
「ああ…」

 私があまりの興奮に黙ると、麗央くんが心配そうにこちらを見てきた。
「あー、えっと」
 慌てて話題を探す。
「あ、あのさ、2組の吉田くん知ってる?」
 私は咄嗟に思いついた名前を出した。
 2組の吉田拓実(たくみ)くんは、陸上部のエースだった。
 その爽やかスマイルと身軽な姿に全学年の女子は目がハートに。
 吉田くんが告白されている所はみんな一度ーーーーいや、数えきれないほど見てきたはずだ。

 まぁ、麗央くんの方がカッコいいけど!

「ああ…吉田ね…」

 麗央くんはさほど興味がなさそうに言った。

「知ってるけど、なんで吉田?」

 私は言葉に詰まった。
 まさか沈黙が気まずかったから…なんて言えない!

「い、いや、ただ知ってるかな〜って…」
「そうか」

 麗央くんはなんだか冷たく言って私に背中を向けた。

「また明日な」

 その言葉が、静かな自習室に響く。

(私、何か悪いことしたかな?)

 そんな不安が拭えない。
 なんだか、胸騒ぎがした。