「何をしている。フランチェスカ。早く来い」

 苛ついた王太子が声を荒げる。 
 
「仰せのままに」

 隣から凛とした声が響いた。
 ふわりと甘い香りが鼻をかすめ、さらりと長い髪が揺れる。

 淡い金色の髪と新緑の若葉のような翠の瞳。白磁のごとくなめらかな白い肌に無機質にも見えるお人形のように整った容貌は、まるで春の到来を告げる初春の女神を具現化したかのよう。

「……お嬢様」

 私の隣から離れて王太子の元へと歩みを進めていく一人の令嬢。

 そのお方の名前はフランチェスカ・ローシャス公爵令嬢。私マリエ・テンベルク子爵令嬢が侍女としてお仕えしているお嬢様なのです。

 シャラン、シャランと神聖な鈴の音が聞こえてきそうな優雅な足取りで進んでいく。
 お嬢様が、一歩、一歩進むたびに周りの生徒たちから感嘆のため息が零れ、息をするのも忘れて見惚れる者もいる。

 そうでしょう。そうでしょう。