「フランチェスカ・ローシャス。こちらに来い」

 唐突にホールに響き渡る怒声。
 今日は学園のダンスパーティー。華やかに着飾った生徒たちがダンスや歓談を楽しんでいたそんなところに似つかわしくない不快な声が私の耳に届いた。

 声の主はベルナルド王太子。金髪碧眼の整った容姿にすらりとした体型はまさしく王子様という感じ。ではあるけれど……今は苛ついているのか顔が歪んで見えて醜い。

 そして、その王太子の隣には一人の令嬢が仲良さげに並んで立っている。まるで婚約者であるかのように。
 彼女の名前はコレット・ラウザード男爵令嬢。
 ふわふわしたローズピンクの髪にくりっとした空色の瞳。可愛らしい容姿と華奢な体が庇護欲をそそるのだろう。少しの怯えを見せつつ、さらに王太子にしがみつく男爵令嬢には浅ましさしか感じない。

 賑やかに華やいでいたホールは今は水を打ったように静かだ。
 皆が王太子たちに注目し成り行きを見つめている。
 生徒間の交流を目的に開催されるダンスパーティーを誰もが楽しみにしていた。

 それなのに、穏やかに流れていた空気を王太子が不快な怒声とともにぶち壊してしまったのだ。

 まったく、何を考えていることやら。