(ああ、どうしよう……!)
 
 きっともう今頃、ラウレルはグリシナ村に戻っていることだろう。オリバやシリオから、ビオレッタがオルテンシアの兵に連行されたことも聞いているに違いない。

 連れ去られてからというもの、ビオレッタの脳裏をよぎるのは……以前カメリアに向けられた、ラウレルの怒り。
 
 ビオレッタを連れ去ったというだけで、仲間であるカメリアに対してもああまで怒ったのだ。
 ただでさえ憎々しく思っているオルテンシアが、私利私欲のためにビオレッタを攫った……となると、その怒りは想像を絶する。思わず身震いしてしまう。

 (ここは城……しかもすぐそばには城下街がある。もしこのままラウレルが来てしまったら、大変なことになってしまうわ)

 本当に、オルテンシアはなんてことをしてしまったのだろう。魔王を倒してしまうほどの勇者相手に、このように雑な喧嘩を売るなんて。

 ラウレルはきっと間もなく、ビオレッタを救いにやって来る。
 少なくとも、ビオレッタの身柄をここから移したほうが良いのは確実だ。
 ひと気の少ない森や山なら、被害を最低限に抑えられるかもしれない。その事を誰かに伝えたいが……

「そんなことを言って、その機に乗じて逃げるつもりなのだろう」

 牢屋番の兵士に伝えてみても、全く取り合ってもらえなかった。
 ただ、信用されなくても無理はない。ビオレッタは、ここより粗末なところに自分を監禁しろと言っているのだから。

「そんな……どうすれば」