とぼとぼと帰路についたビオレッタは、少しため息をついてから道具屋の扉を開けた。

「ビオレッタさん、お帰りなさい!」

 ビオレッタのかわりに店番をしてくれていたラウレルは明るく出迎えてくれたが、ビオレッタの顔色は冴えない。

「……どうかしたんですか」

 ラウレルをまた心配させてしまっている。
 我に返ったビオレッタは、摘みすぎた薬草をカウンターに置いて何でもないように取り繕った。

「森まで歩いて、少し疲れてしまっただけです。お客さんはいらっしゃいましたか?」
「いえ、まだ」
「そうですか……」

 やはり、客は来ていないようだった。
 減らない在庫。減り続ける客。ラウレルには無駄な店番を頼んでしまった。
 現実のひとつひとつが、ビオレッタの心を重くしていく。

「ラウレル様、すみませんでした。お客さんも来ない道具屋の店番をさせてしまって」

 つい、卑屈なことを口にしてしまった。その声はどうしても震えてしまって……ラウレルが怪訝そうにこちらを見ているのがわかる。

「……ビオレッタさん。やっぱり、なにかあったのでしょう?」

 彼は、ビオレッタの肩に優しく手を添える。
 まるで、のし掛かっている不安を消し去るように。

 ビオレッタはラウレルを見上げた。
 彼は、心から自分を心配してくれている。この悩みも彼に言ってしまえば、有能なラウレルのことだ、きっと一瞬で解決してくれることだろう。何もかも。
 でもこれは自分の問題だ。この店は、両親から受け継いだビオレッタの店なのだ。

「本当に何もないんです。ラウレル様、店番をありがとうございました」

 ビオレッタは今できる精一杯の笑顔を作ってみせた。
 ラウレルはまだ、いぶかしそうにこちらを見ている。あまり見られては、取り繕った心を見透かされてしまいそうで……これ以上気持ちを読まれたくなくて、ビオレッタは慌てて背を向けた。


 もう、一人になってしまいたい。
 けれど、後ろには、まだラウレルの気配を感じる。


「ラウレル様、もう店番は結構ですから……」
「ビオレッタさん、目をつぶって」

 突然、ラウレルが後ろから抱きしめた。
 かと思うと、次の瞬間まばゆい光に包まれる。
 足元からは緩やかな風が巻き起こって――

 これは……転移魔法だ。

「一体、どこへ……」

 言い終わる前に、白い光が視界を覆った。