プチプチと、無心で薬草を採り続ける。
 心のモヤを紛らわせたくて。

 あんなものは世間話のひとつに過ぎない。もしかしたら、行商人はビオレッタのことを心配して、あのように声をかけたのかもしれない。

 でも、大丈夫なのかと聞かれたら……大丈夫とは言えなかった。
 以前の道具屋を知るあの人なら、この状況・仕入量を見ただけで一目瞭然だろう。商人なら分からないだろうか、「大丈夫ではない」と口にすることの辛さが。

 もう、これまでのような経営をしていても、店が立ち行かなくなるのは明白だった。
 両親から受け継いだ、大事な店なのに。
 


 ビオレッタの両親は数年前、モンスターに襲われて命を落とした。
 採取のため少し遠出をした際に、運悪く上級モンスターに出くわしてしまったのだ。

『ビオレッタ、ごめんね。店をお願いね……』

 それが母の最後の言葉だった。

 以来、ビオレッタは母の言葉を守り、一人で店に立ち続けている。
 勇者によって魔王が倒され人々の生活に平和が訪れた今も、両親がつけていた帳簿を見直し、それに倣い店を開き続けてきた。

 隣のシリオも同じようなものだった。彼の両親も昔、モンスターにやられている。
 一人で武器屋を維持していた彼も、魔王討伐後の身の振り方を試行錯誤しているようだ。最近はたびたび城へ出張しては、兵士達の剣を研ぎ直したりして生計を立てている。

 ビオレッタも、村に留まっている場合ではないのかもしれない。収入がなくては生きていけないのだから。
 プラドのバザールで見た商人達は素晴らしかった。皆それぞれに目玉の商品を持ち、どのようにしたら売れるか、値段も陳列も時期も……全て考え尽くして商売をしていた。

 あの商人達のように、両親のように……行商などをすべきだろうか。ただ、ビオレッタはあそこまでの知識も、売りになる商品も持ち合わせていない。何より、世間知らずな自分が不甲斐なかった。