「ビオレッタさーん」

 青く澄んだ海から、ラウレルが大きく手を振っている。
 もう片方の手には大きな魚。まさか素手で魚を捕まえたというのか、彼は。
 ビオレッタは驚きつつ、手を振って彼の笑顔に応えた。

 砂浜へ着くなり服を脱ぎ捨て、ズボン一枚になって泳ぎ回る姿は、まるで無邪気な子供のようだ。勇者ともなると、泳ぐのも上手なのだな……と彼を見ながらぼんやりと思う。

 ビオレッタ自身、海へ来るのは久しぶりだ。
 砂浜までは歩いて数分ではあるのだが、釣りや水浴びなどの目的がない限り、地元の人間はなかなか来ない。

 足元を見下ろすと、砂浜には稀にリヴェーラの石が落ちていた。ビオレッタの目的といえばこちらだ。
 乳白色に透き通った綺麗な石は、光に反射して見つけやすい。ラウレルが泳いでいる間、形が綺麗なものをひとつひとつ見つけては、ポケットに入れていった。
 
(こんなに綺麗で、付加価値もあるのだけど……あまり売れないのよね)

 まあ、売れないのはリヴェーラの石に限らないけれど。

 道具屋では、リヴェーラの石以外にも薬草や傷薬、グリシナの水などを売っていた。
 父や母が健在であった頃から変わらない堅実な品揃えだ。
 生まれてからずっと、道具屋の商品とはこのようなものだと思っていたけれど……最近はまったく売れない。

 昨日、バザールの素晴らしい品揃えを目の当たりにしたことで、ビオレッタには急に道具屋が色褪せて見えた。
 華やかなバザールに比べ、地味で、品数も少なくて、面白味がなくて……客が来なくても仕方がない。

 比べてしまうと、ついつい気持ちが暗くなる。
 片田舎の道具屋が、バザールのようにはいかないと分かっているけれど――