牛の鳴き声。ザザザ……と寄せる波の音。
 まばゆい光が徐々に収まる。

「ビオレッタさん、着きましたよ」

 ラウレルの声を合図に目を開けると、そこは夕暮れのグリシナ村だった。
 二人は両手いっぱいに品物を抱え、村の入り口に立っている。

「帰って……きたのですね」

 一日中プラドのバザールを歩き回り、ビオレッタの身体はくたくただった。楽しすぎて、少々はしゃぎすぎてしまったかもしれない。

 今日は初めて見るものばかりだった。
 金や銀の食器、色とりどりの宝石、奇妙な銅像、異国の武器……見るものだけではない、触れるもの、香りまでもが新鮮で。

「つい楽しくて、沢山買ってしまいましたね」
「ラウレル様も楽しかったのですね。私だけがはしゃいでいた訳ではなくてよかったです」
「当たり前ですよ! きっと、ビオレッタさんが想像しているよりもっと――俺は今日が楽しかった」
 
 ふと、荷物を持つ彼の手を見ると、その指にもビオレッタと同じ金の指輪。石の色は透明な紫。

「ラウレル様、その指輪は」
「ああ、例の商人が俺にも贈ってくれたんです。せっかくなので身に付けましょうね、ビオレッタさん」
「は、はい……?」

 

 グリシナ村育ちのビオレッタは知らなかった。

 商人がわざわざ『金』に『蒼』の指輪をビオレッタに贈った、その意味を。『紫』の石をラウレルが身に付ける、そのわけを。
 
 ビオレッタは顔の前に手を広げ、しげしげと眺める。
 生まれて初めての指輪をはめた自分の指は、なんだか自分の指ではない様で少し気恥ずかしい。

 そんな彼女を、ラウレルの蒼い瞳が満足そうに見つめていた。