振り返ってみると、いつの間にかラウレルが青い顔で立っていた。あの物音は、彼が鍬を落とした音だったようだ。

「ラウレル様、お帰りなさい。オリバさんちの畑仕事、大変だったでしょう」
「今、聞き捨てならない話を聞いてしまったのですが」

 彼は早足で二人に近づくと、顔を青くしたままビオレッタに詰めよった。
 しかし、彼の言う『聞き捨てならない話』とは一体何のことだろうか。世界の終わりを迎えたようなラウレルの表情に、ただならぬものを感じてビオレッタも身構えた。

「ビオレッタさんとシリオさんは……結婚するような仲だったのですか」
「あー……そのこと?」

 シリオが面倒くさそうに頭を掻いている。ラウレルは先程の話を立ち聞きしてしまい、二人の関係を誤解したようだった。
 さすがに誤解されたままでは居心地が悪い。ビオレッタは慌てて説明する。

「この村は若者が少なくて……私が十八歳、シリオが二十五歳で。年齢のバランス的にちょうどいい組み合わせだったので、昔から村の皆がくっつけようと……それだけの話なのですが」

 グリシナ村で、ビオレッタと釣り合いが取れそうな年の近い男はシリオただ一人だった。
 そのため、昔から村ではセットにされ、いずれ二人は結婚すると暗黙の了解のようなものがあった。

 しかし残念ながら、恋愛感情は微塵も生まれなかった。お互いを兄のように、妹のように、家族同然に思っていた二人に、そのような関係になる要素が存在しなかったのだ。
 ただし、「しょうがないからいつかは結婚してもいいか」くらいには割り切っていたのだが。