どう英訳する?


 そして私は、自分が思っていたよりも目立つ存在だった。
 誰もが視線を奪われる陽兄に物怖じせず、崇めることもなく、興味なさげに淡々と「まるで妹のようだ」と言われるほどの理解者であり、幼馴染みである私の言動は、気づかぬうちに注目されていた。

 アホだの、バカだの、陽兄に遠慮なく言う。
 実際、そうだと思うから当たり前だ。

 けれど、ただひとつだけ。
 陽兄を認めていることがある。

 誰に媚びることなく、真っ直ぐに立ち向かう純粋さ。
 サッカーでも、友人でも、勉強でも。勉強については結果は出てないけど、ひねくれた自分のことを思えば、うらやましくも思う。
 キラキラと、真っ直ぐに見ることが出来ないぐらい、まぶしい。

 そうなると、結果は違うけれど、晴海ちゃんと同じ理由になってしまっている。

 陽兄のことは好きだ。
 だけど、この関係を壊したくない。

 晴海ちゃんのことも好き。
 だから、この関係も壊したくない。

「あ、もうこんな時間だ。家に帰らなきゃ」
「ほんとだ! 陽菜ちゃん、付き合ってくれてありがとね」
「美味しかったよ。ご馳走さま」

 晴海ちゃんに見送られて外に出る。
 空に残る夕焼けは少なく、遠くには夜が侵食していて、星が(またた)きはじめていた。

「あーあっ」

 この気持ちをどうすべきか。
 そもそも「Like」とするか「Love」とするか。それともーーー。

「月が綺麗ですね」

 ふと、国語の授業で先生が話してくれた言葉が浮かんだ。
 有名な文豪が海外のとあるフレーズを日本語(やく)した言葉。ならば、その逆はどうなのだろう。

「   」

 ふわりと白い息が宙を舞う。

 いつかは決着をつけることになるかもしれないけれど、今はこのままに。
 どう英訳するかは、まだ未定。