「やっぱり、納得できない」
「どうしたの? 陽菜ちゃん。受験勉強で分からないところでもあるの?」
目の前には心配そうに眉をハの字にした晴海ちゃん。
「ううん。なんでもないよ」
「そう? 陽菜ちゃんがしっかりしてることは分かっているけど頑張りすぎちゃうところがあるから…無理しないでね?」
よしよしと頭を撫でてくれる晴海ちゃんの温もりにうっかり涙がにじみそうになる。
私は目元にグッと力を入れて、涙を飲み込んだ。
「うん。ありがとう、大丈夫だよ」
「なら良かった。でも、困ったことあったら相談していいんだからね」
私は晴海ちゃんの何気ない言葉に、行動に、何度も救われてきた。
両親は仕事人間の共働きで、遅い時間のお迎え、バタバタとする夕食。忙しい日々を送っていた両親が休日に出かける体力が残っているわけもなく。
それは幼い私にとって、寂しくて悲しいことで。かと言って、泣いたり、困らせたりするのも出来なくて、私は、静かにして、手のかからない子供でいることしかできなかったし、それが唯一、親に褒めてもらえることだった。
その頃、寂しさの湖に沈んでいた私に手を差し伸べてくれたのは陽兄と晴海ちゃんだった。
「おい、陽菜なにしてんだ?」
「一人なの? お姉ちゃんたちと遊ばない?」
子供ひとりで出かけられる、近所の公園のブランコに1人で乗っていたら声をかけてくれた。
それからと言うもの、陽兄と晴海ちゃんは私を見かけると、声をかけてくれるようになった。そのことにどれだけ私の心が救われたのか。
私が陽兄や晴海ちゃんを慕うのも当然で。


