「はぁ。陽兄(ようにい)、状況説明してくれないと聞くに聞けないんですけどー?」

 わざとらしくため息をついたけれど、陽兄は気にする様子はない。
 むしろ、私が乗り気だと判断したらしく、嬉々として説明をはじめた。
 本当にアホ。体力バカ。サッカー馬鹿。
 私が陽兄の命令を素直に聞くワケないのに、兄は盛大に勘違いをしている。
 誰のために、私が行動をしているのか。

「で? つまり、バレンタインデーにデートに誘うと思って、それとなく予定を聞いたら、答えをはぐらかされたってこと?」
「デートってワケじゃ……」
「はいはい。陽兄、晴海ちゃんにヘンなことしてないよね?」

 うだうだと長くなりそうな話をショートカットしてまとめただけなのに、陽兄は不満そうな顔をしていた。
 もちろん、気づかないふりをして聞き流す。
 私にとって一番大事なのは、晴海ちゃんのことだから。

「ヘンなことっ!? き、きき、いや、なにも!?」

 口をパクパクと魚みたいに開いた兄の様子を見て、なにも起きていないことを確信した。
 それに、兄がなにを想像したか大体予想はついてしまった。
 高校2年生になっても小学生レベルの恋愛偏差値には(あき)れる。