そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~

「待ってくれ」

 廊下に飛び出した私の手首を掴んだのは阿久津社長だった。

「離して下さいっ」
「ちょっと俺の話を聞いてくれないか?」

 何なのよっ?

「さっきのことは謝る。ちゃんと説明させてくれ」

 説明?

 抵抗をやめて、社長を見上げた。

「廊下では話にくいから、社長室へ戻ろう」

 その瞳には真剣さが見えたから、コクンと頷いた。
 阿久津社長は私の手首をつかんだまま歩き出したから…。

「あの、社長、手…」
「あ?ああ」

 彼は静かに私の手首を離した。
 
 男の人に触れられるなんて、高校の体育以来だと思う。
 すこし前まで彼の体温を感じていた左手首は、まるで脈を主張するかのようにドクドクしている気がした。