涼介さん、今更何を?

 さっきまでにぎやかに聞こえていた子供たちの声が聞こえない。
 公園を行き交う人たちの姿が見えない。

 時間が止まった気がした。
 彼の瞳には驚いた私が映っている。

「俺のことだけ考えて」

 静かに動く彼の唇。

 ドクン。と心臓が鳴った。

 これはどう理解したらいいの?
 
 耳の奥でドクドク血液が流れる音がして、陽の光が眩しくて。

「美里、本当は……」
「おにーちゃんっ!ボール取ってぇーーーーー」

 その声で私は我に返った。
 見れば、涼介さんの足元には野球ボールが転がっていた。
 素早く彼はそれを拾うと、「いくぞーーっ」と少年に声をかけて、投げ返してあげた。

「ありがとーーー」

 少年のお礼に手を振って返している。
 
 涼介さん。何を言おうとしていたの?

 聞きたいけれど、聞けなかった。

「夕食何にする?」

 会話の展開に思わず笑ってしまう。
 彼も気まずいのだろうか。それとも、気を使って? 
 だから私も、それに合わせる。

「う~ん、そうですね。何が食べたいですか?」
「久しぶりに和食がいいな。刺身とか」
「じゃあ、そうしましょう。お刺身なら私も楽だし」
「きんぴらと、卵豆腐も欲しいな。あと酢の物も」
「もー、欲張りですよ」

 落ち込んだり、心のどこかで彼に期待したり。
 
 不安定な気持ちを殺すように私は笑うのだった。