そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~

 翌朝。いつもは私が先に起きるのだけれど、自室を出ると涼介さんがリビングのソファーに座っていて驚いてしまった。

「おはよう…ございます」
「ああ」

 いつもと様子が違う涼介さんを見て、心がざわつく。
 昨日、突然泣いたこと、怒ってるのかな。
その理由もうやむやにして、昨日は寝てしまったし。
 
 あれ?
 涼介さんもしかして?
 
「あの、もしかして寝ていないのではないですか?」
 
 どことなく表情に疲れが残っているように見えた。

「……ちょっと考えごとしてたから」

 やっぱり。

「少し寝たほうが」
「いや、いいんだ」

 私が胸の内を言えないように、涼介さんも言えないんだ。
 
 お互いの心に溝があるのを感じた瞬間だった。
 
「仕事、楽しい?」

 唐突に聞かれて、一瞬間が開いてしまった。
 涼介さん、私が昨日泣いたこと、仕事関係だと勘違いしたのかな?
 だったらちゃんと答えて誤魔化そう。
 
「はい。契約書はミスがあったら大変だから神経を使うこともありますが、責任も感じていますし、大学で法学を学んだ甲斐があります」
 
 良かった。と静かに彼は笑う。

 仕事の話が出たから、楓の話もしてみようか?
 とっさに頭に浮かんだ。
 
 こんなことを話すのは涼介さんに甘えてる?

 ううん、違うな。
 苦しんでいる社員を助けるのは社長の務め。
 ──であるはず。

「涼介さん、実は──」


 ◇


 翌日の午後のこと。

「吉永さん、緊急社内通達見た?」

 飯倉さんだ。

「もちろん見ました」

 涼介さんがすぐに動いてくれたのだった。

 通達の内容は、パワハラ、セクハラ、カスハラについてのものだった。
 
 もちろん今までも、そう言った内容の研修は行われていたけれど、今回は対社外についても部門別に細かく書かれていた。

 加えて社長直下の相談窓口の設置。
 ただでさえ忙しい体なのに、涼介さん自ら相談を受けると言う。

 楓は営業職に誇りを持っていたから辞めて欲しくなかった。
 これで彼女も少しは楽になればいいと思う。