涼介さんはツインタワーの左側住居棟の上層階に住んでいる。
 実家はノースエリアにあるのだけれど、仕事が早朝からだったり、逆に遅い時などご両親に迷惑を掛けるとの理由で、独り暮らしをしているのだった。

 食事が済み、ちょうどコーヒーも飲み終えた時だった。
 インターホンが鳴る。

 きっと高津さんだ。

「今日は随分早いんですね」
「ああ、朝食を兼ねたミーティングがあるからね」
「えっ、だって今食べてましたよね?」
「外食より、美里が作ってくれた方が美味いから、俺は飲みものだけのつもり」

 そう言ってジャケットを羽織る。

「行ってらっしゃい」

 彼を送ると急いで食器を片付け、私も出社の準備に取り掛かる。

 同居が始まってもうすぐ一週間。
 最初は戸惑ったし、失敗もあったけれど、少しずつこの生活にも慣れ始めていた。

 ツインタワーの住居棟からオフィスのあるビルまでは徒歩で十五分ほど。
 運動にはちょうどいい距離だ。

 並木道を歩くと、春の風が気持ち良かった。

「今日もいいお天気」

 アパートに住んでいた頃は、洗濯物は出社前に部屋干しをしていた。
 けれど今は乾燥機に入れておしまい。
 涼介さんの物はほとんどクリーニングだから、朝コンシェルジュに預けて、帰りに受け取ればいい。

 時間に余裕が出来ると、不思議と心にも余裕が出来るようだ。

 歩く足取りも軽やかで、景色を楽しむ気持ちも生まれる。
 満員のモノレールにも乗らなくていいし、何よりオフィスが近いことが楽だった。