楓は営業部所属。契約のことで工藤さんとやり取りしていたことを思い出した。
 工藤さんは私より二つ先輩だ。

 タコさんウィンナーをフォークで刺す。

「工藤さんて、男のくせにちょっとおしゃべりじゃない?」
「そんなことはどうでもいいのっ。なんで社長に呼ばれたわけ?」

 早速私は飯倉さんにしようとしていた言い訳を口にする。
 やっぱり考えておいて良かった。

「大学時代にインカレで、フットサルチームのマネージャーしてたじゃん」

 うんうんと楓は頷く。

「でね、実は社長そのサークルの先輩だったわけ」
「へー、そうなの?知らなかった」
「私がマネージャーしてたことが、どこから社長の耳に入ったかは分かんないけど、懐かしくなったみたいで」
「急に話をしたくなった?」
「そうみたい。びっくりするよね。そんなことで呼ばれるなんて」

 おにぎりをぱくつく。

「美里もびっくりしたんじゃない?急に呼ばれたりしてさ」
「そりゃそうよ。何か悪いことした?って思っちゃった。でもこの話、LINEで良くない?」
「良くないよ。きっちり本人の口から聞きたかった。けどさ、大したことなくてガッカリ」
「はぁ、何期待してたわけ?」

 楓いわく、何かすごいことが起きた気がしたそうだ。

「一目惚れしました。結婚してくださいとかさ~」

 ギクリとなる。
 案外この子察しがいいかも?

「ドラマの見過ぎ」
「なんかさぁ、夢見たいじゃん。今の世の中暗いニースとか多いし、仕事は忙しいし。あり得ないこと起きて欲しい」

 気持ちは分る。
 毎日毎日忙しくて、遅くまで残業して。
 いいこと無くて。