「どうしてあなたのかしらねっ!」

 独り言とは思えない大きな声で、間宮さんは白く長い指で重役専用のエレベーターのボタンを押す。
 
 どうやらすこぶる機嫌が悪そうだ。
 私は肩をすくめる。

 AKUZUコンサルティング&Co.は日本で五本の指に入るコンサルティングファームだ。
 そこの社長秘書だけあって、間宮さんはかなりの美人。ダークブラウンの髪は背中の中央まで伸びていて、毛先にゆる~くパーマが掛かっている。
 スタイルも抜群で、ウエストは見る限り四十cmくらいしか無いみたいだし、そのくせ出るところはちゃんと出ている。
 ベージュのスーツを見事なまでに着こなしていた。

 一方、私と言えば…。
 美容院は二か月に一度しか通わないから、ちょっと伸びちゃった前髪が目にかかり、セミロングの茶色の髪は色落ちして自分で言うのもなんだけど汚いし、毛先が不揃い。服装も全国展開しているファストファッションの二千九百円で買った上下のニット。

 並ぶだけでも恥ずかしくなってきた。
 
 加えて間宮さんは年齢二十九歳、都内の有名大学文学部出身、茶道華道は師範レベル。父親は大手新聞社の支局長。お母さんは旧華族の家柄らしい。
 
 社内の噂では社長夫人候補最有力とか。

 当然と言えば当然でしょうね。それだけの人なのだから。
 
 田舎出身、一般家庭のサラリーマンの娘の私からしたら、彼女の華やかな経歴にはとても敵わない。
 社長に近い人とはこんな感じの人なのねぇ。などとのんびり間宮さんを観察していたのだった。