そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~

 過去を思い出そうと首を傾げる私に、とんでもない言葉が浴びせられたのだった。

「あの日、社食で一番最初にうどんを注文した女性を彼女にする。と決めていたんだ」

 へっ?
 何ですか?その適当な決め方は。
 しかも、”うどん”って。その庶民的で貧乏くさい選び方は?
 せめてランチにして下さい。などと余計な突っ込みをしたくなったのだけれど。

 確かその日は給料日前でお金が無くて。本当はランチが良かったのにお財布には三百円しかなくて、カードも上限ぎりぎりだったから使えなくて、それで選んだのが”うどん”だった。

 しかも、休憩用のコーヒー代を差し引いて、具無しの素うどんを注文したのだった。
 そんなぎりぎりの生活をしている貧乏女を選んでいいんですか?

 闇の中で髪をかき上げる彼が薄っすらと見えた。

「理由は無いんだ。あの時ふっとうどんが頭に浮かんで…」

 だろうと思います。
 でなければ、私が今ここにいるはずはないのだ。

「私、美人じゃないですけど」
「俺は顔で女性を選んだりはしない」

 でも、うどんで選ぶんですね。
 なんだか矛盾している気もするけれど、別に本当の彼女になるわけでもない。
 ご両親を騙すための一時的なもの。

 彼氏ない歴二十七年。ヘンテコな理由ではあるけれど、ここで終止符を打つのも悪くはない。
 社長の彼女と言ったところで、ご両親にご挨拶をするだけだろう。
 
 そこで、『なんだこの女っ!』と言われれば、私のお役目は終了。次の女性にバトンタッチするだけだ。

 それに社長にここまで頭を下げられて、嫌です。と言うほど私は冷たい人間じゃない。

「えっと、彼女(仮)になってもいいですよ、私で良ければ」
「引き受けてくれるか。良かった。ありがとう」

 立ち上がると阿久津社長は私の手を取った。

 はい?

「これは契約の証だ」

 そう言って私の手の甲に口づけたのだった。