そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~

 物珍しそうに楓はキョロキョロしている。
 私もそうだった。
 築五十年近いアパートから、いきなり超高級マンションへの引っ越し。ディスポーザーとか最初は戸惑ったし。

 彼がリビングの扉を開けると。

「わぁ、すごいっ」

 やっぱり私と同じ感想を漏らす。
 それは部屋の造りや豪華さじゃない。眼前に広がる東京の景色に圧倒されるのだ。

「東京が全部自分の手の中にあるみたい」

 私と涼介さんは顔を見合わせて笑う。

「美里も同じこと言ってたね」
 
 無言で頷く私。

 前面ガラス張りの窓に両手をついて楓は動かない。

「君もそうだったね」
「でしたね」

 あまりにも楓が動かないから、声を掛けると。

「イチャイチャしてるから、声を掛けづらくて。来るんじゃなかった」
「ごめんっ。座って今お茶を入れるから」
「お茶なら僕が入れるよ。食事は済んでるんだよね。もしお腹空いてたらピザでも頼むけど」
「平気よね?」

 無言で頷く楓。

「彼の入れるコーヒーすごく美味しの」
「はいはい、どーもご馳走さまでーす」

 つっけんどんに彼女が言うから、私たちはお互いに視線を合わせて肩をすくめる。
 
 そんなつもりじゃないんだけど、ごめんね。

「──それでね、楓ね、主事に昇格したの。すごくない?」
「へぇ、その年だと異例の出世じゃないか?」

「まさかとは思いますが…」前置きして楓は涼介さんを見る。

「美里の口添えとか、社長のご厚意ってことはないですよね?」

 呆れたように彼は笑う。

「僕はそんなこと絶対にしないし、たとえ美里から相談されても断ってるね」

 涼介さんのきっぱりとした物言いに、楓もすぐに納得したようだ。

「僕は人事に口を出さない。どんなに頼まれてもね。それは君の実力で掴んだ椅子だ」

 言いながら、あっ。と顔をしかめる。
 私も楓も察している。

「一度だけあるな。でももうあんなことはない。ここで誓うよ」
「一度だけですかぁ?」

 意地悪な顔をしてたずねる楓だった。

「あー、二度だね」

 もしかして、私が秘書になったことかも。
 内心でヒヤッとするけれど…。

「それは仕方ないですよね。だって美里を守るためだから。私情と言われたらちょっと違う気がします」
「ありがとう。君は本当に優秀な営業だね」
「当然です」

 胸を張る楓と三人で大笑いしたのだった。