「コーヒー入れるから、休んでいて」

 彼の言葉に甘えることにする。

 元気になって退院したはずなのに、帰って来ただけですごく疲れているのに気づく。
 体が思うように動かない。
 病院では大半をベッドの上で過ごしていたから、ほとんど歩くことが無かった。トイレに行く時が一番歩いたくらい。 
 歩く感覚を忘れて、体力が落ちて体が訛ってしまっているのだろう。

 コーヒーミルで豆を砕く音がして、直ぐにいい香りが私のもとに届く。
 
 毎朝涼介さんがコーヒーを入れてくれたことを思い出す。
 朝の習慣だった。

「はいどうぞ」

 湯気の立つカップを両手で受け取る。

「ありがとう。なんだか懐かしい、この香り」
「朝の習慣だったからね。二人でコーヒーを飲んで、他愛のない話をして出社する」

 コーヒーを一口飲む。

「涼介さんの入れるコーヒーはやっぱり美味しい。入院しているとき、すごく恋しかった」
 
 もう一口飲む。

「病院のコーヒーはあまり美味しくなくて」
「おい。俺の入れたコーヒーと病院のベンダーのコーヒーを一緒にするなっ」

 コツンと頭を叩かれる。

「あはは、ごめんなさい」

 少しづつ彼との日々を取り戻していく気がした。

「ところで美里の荷物、俺の部屋に運んでおいたから」

 はい?

「もう俺たち別々の部屋で暮らす必要ないだろう?」

 えっと、それはどうでしょう?

 案内されて、彼の部屋に入ってみると──。