翌朝は彼と目を合わせるのが恥ずかしくて。

 それは涼介さんもそうみたい。

 あんなに激しく愛してくれたのに。まるで別人のよう。

 向かい合って食事をする姿がお互いぎこちない。

「今日は遅くなるから、先に寝ていて」
「そんなに遅いんですか?」
「もしかしたら、夜中になるかも知れないし」
「……そう、ですか」

 今までは彼がどんなに遅くても、全然平気だったのに。
 どうしてかな。今日は心が寂しいと疼く。

「お夜食とか作っておきますか?」
「いらない…かな。出先で食べるから」
「そう…ですか。分りました」

 ピンポーン。
 いつものようにインターホンが鳴る。
 高津さんがお迎えに来たのだ。

「あ、じゃあ行くね」

 玄関まで見送るために私も席を立つ。

「行ってらっしゃい。気をつけて」
「あ、ああ。美里も今日は残業しないで早く帰っておいで。心配だから。じゃあ行って来る」

 パタンとドアが閉まる。
 彼が出て行った空間をじっと見つめてしまう。それも今までは無かったこと。
 ふーっと大きく息を吐いた。今日は何故か、緊張してしまうからだ。

 変な私たち。
 けれど、いつまでも余韻に浸っているわけには行かない。
 私もオフィスに行かなければならないのだから。

「さてと、クリーニングに出す服をまとめちゃおうかな」

 気持ちを切り替える。

「美里っ」
「えっ!忘れ物ですか?」
「ああ。大事なもの」

 腕を掴まれると重なる唇。

 嘘っ!?

「行ってらっしゃいのキス」

 わざわざそのために戻ってきたの?

 私はカーっと顔が熱くなるのを感じた。
 
 そんな私を残して彼は再び急いで出て行ったのだった。