「何と表現したらいいのか…。まるで、都会の海にいるようで。都会の海の中の小舟に乗っていて、夜空には大きな月があって」

 最高の賛辞です、涼介さん。

「じゃあ、もう一曲なにか弾きましょうか」

 楽しくて仕方がない。
 自分を表現できる最高の手段は、やっぱりピアノなんだ。
 
 以前言ってましたよね。自分の磨き方を見つければって。
 あなたが見つけてくれました。

「今度はドビュッシーの月の光がいいかな」

 再び鍵盤に指を降ろそうとした時──。

「あっ…」

 ピアノの椅子から滑り落ちるように床に押し倒されていた。

「りょ、涼…」

 私の言葉は遮られた。

 互いの吐息が暗闇に溶ける。

 いつの間にか脱がされたドレス。

 重なる体。

「涼…す…け…さ……」 

 言葉にならない声は彼を激しくさせた。

 彼の唇は私の体にたくさんの灯りをともしていくようで。

 涼介さん──。

 涼介さん──。

 熱い激流が私のすべてを押し流す。

 涼介さん──。

 きっと私はこうなることを待っていた。
 
 だから、私を…都会の海で──、溺れさせ…て──。