そんな簡単に彼女を決めていいんですか? ~偶然から始まる運命の恋!?~

「あら?帰って来たんですか?」

 間宮さんの不愉快そうな声に迎えられると、阿久津社長はそれを無視した。

「席を外してくれ、間宮」
「嫌です」

 きっぱりと断る声が社長室に響くと、空気は緊張したものに変わった。
 
 困ったように頭をくしゃくしゃっとかき上げる阿久津社長。
 彼の横にゆっくりと歩いて来る間宮さん。

「おっしゃいましたよね。吉永さんに彼氏がいたら諦めるって。人の恋を邪魔する気はないと」
「ああ、言った」
「吉永さんには彼氏がいます。よね?」

 こちらに振られて一瞬戸惑ったけれど。
 さっき彼氏がいると嘘をついちゃったから、今さら引くに引けない。
 
 だけど、そんなことでどうしてこの二人が揉めているのか、やっぱり理解不能。
 話の内容からして賭けでもなさそう。

「いい加減、男らしく諦めたらどうですか?」

 社長に対して随分強い口調で話すんだなぁ。などと驚いていたのだけれど、彼女の口は止まることを知らないみたいで。

「吉永さん、社長にはっきりと言ってください。彼氏がいると」

 阿久津社長はどう見ても追い込まれているように見えた。
 私の小さな嘘のせいで。

 どうしよう。
 やっぱり本当のことを言えば良かったのかな。
 間宮さんにも、阿久津社長にも義理立てする筋合いはない。
 
 えーいっ。もうやけ。
 
 戸惑う私をせかすように間宮さんは同じ言葉を繰り返した。

「吉永さん!言って下さい。彼氏がいるとっ」