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「婚約ぅ!?」


「……うん」


思わぬ事態に、伊吹くんもびっくりしている。


「ま、まずい。綾都さんが聞いたら俺殺されるぞ……」


「はぁ……」


何かぶつぶつと顔を真っ青にして呟く伊吹くんをよそに、深くため息をつく私。

断るってこと、わかりきってるはずなのに。


どうしてか、断る勇気を持てない。



「ねぇ、綾都はいつ仕事が終わるの?」


「ひぇっ……え、あぁ、来週には終わるんじゃないですかね?」



綾都の話題を出したからなのか、突然話しかけたからなのか、伊吹くんの肩がびくっと跳ねる。


来週、か……。


あと数日……。

綾都に相談しようかな。



私はスマホを出して、綾都とのトークルームを開く。



___でも、綾都、お仕事で忙しいもんね。婚約の話は、私の問題でボディガードである綾都には関係がないこと。



私は、閉じたスマホを少し乱暴にポケットに入れる。



「……断るんですか?」


「……わかんない」



伊吹くんが何か話しかけてくれたけど、そんな私は上の空。

何もかもわからなくて、「わかんない」なんて返事しちゃったけど。




「やっ……やばいやばいやばいっ、綾都さん帰ってこないでくれぇ……」



車窓から眺める空は、まるで私の心をうつしたかのように曇天だった。