「おはよーございます」


「……」



あれから数日。

私の大切な大切なぬいぐるみを引きちぎってバラバラにしたことなんて忘れたかのように、ケロッとした表情で今日も私のそばについているボディガードの水上。



「許してないから」



ギロリと睨むと、水上は肩をすくめるふりをする。



「お姫さんこそ、彼氏に浮気されたの、開き直ったんだー?」



悪びれずにそんなことを言う水上を再び睨む。でも、そんなこと気にも留めていないみたいで。


もう、彼氏なんて絶対にいらない。

恋なんてしない。

好きな人なんて、作らない。




「男は踏み台、使い捨てなの」



別れたこと、あいつが後悔するくらいの美人になってやるんだから!

人生において、切り替えることは大切だもの。


ふん、と鼻を鳴らすと、水上はそんな私を見て笑う。



「男は踏み台、使い捨て……ねぇ」



「……男と女なんて、所詮分かり合えないの。男が浮気するんだったら私だって、女だって男を利用するに決まってるわ」



「はは、まじどーでもいい」



そう言ってニコニコ笑う水上は、イマイチ何を考えてるかわかんない。

それに、その笑顔が私には仮面にしか見えない。

貼り付けられた笑み、そんな感じ。



それがとても不気味に感じるような瞬間があった。




「それにしても、水上、本当に私のこと守れるの?」



車のミラー越しに、目が合う。

思わずその漆黒の目に吸い込まれそうになって、慌ててそらすけれど。



「ずっとニコニコしてるし、ひょろいし、弱そうだし。私よりも隙だらけみたい」



……嘘。
本当は、隙なんて感じさせないほど、彼の周りには異様な雰囲気が漂っている。

でもこれは、彼を試すための冗談。

弱そうなのは事実だけど。



「……自分の身すら守れないくらい弱いかもね?」



サラリと恐ろしいことを口走る水上。
自分の身も守れないんじゃ、もしものとき二人とも危ないじゃない。



「クビにならないよう、頑張って」



弱そうだの、ひょろいだの、クビになるだの、自分の中での最大の嫌味を言ったつもりなのに、水上はヘラヘラと笑みを絶やさない。


なんだか、水上と一緒の空間にいると調子が狂う。


変な感じになる……。



「着きましたよ、お姫さん」



いつのまにか学校には着いていて、車から降りるよう促される。



「……ありがとう」



毎朝送迎をしてもらっていることには変わりないので、渋々お礼を言うと、運転席の水上はにんまりと口角を上げた。