綾都は昔から私を知っていたんだ……。

わざわざ綾都が私のボディガードになるために自ら申し出た、とこぼしていた伊吹くん。


全ての回路がつながった気がした。


次の瞬間には、私はベッドから勢いよく起き上がってお父様のいる書斎にノックもせず駆け込んでいた。



「なんだ、ノックくらい……」


「お父さんっ……!」



すごい形相の私をお父さんは驚いたように見つめると、お父さんはソファに座るように促した。



「……綾都はどうなったの……?」



ただ、綾都に会いたい。

ずっと私のこと、知ってたんだねって。

約束、覚えてて、それに守ってくれたんだね。

ありがとうって、そう伝えたい。



___それでも、運命を決める神様は残酷で。



お父さんは、少し考えるように窓の外を眺めたかと思うと、私の対面の位置に座って、重そうに口を開いた。



「水上とは、契約を解除した。数週間後には、新しいボディガードが付くことになっている」


「っ……そ、んな……」


「私も、水上がどうなったのかは知らない。水上の所属先とも繋がっていないからな」



呆然とする私の頭にお父さんの手が乗る。



「……助けてもらった恩は、忘れるな」


「っ、……ぅ」



ポロポロ……と、涙が頬を伝っていく。

そんなの……綾都が死んじゃったって言ってるようなもんじゃない。


もしかしたら助かってるかもしれないのに……っ!


なんで簡単にそんなこと……。



私は走って書斎を出ると、再びベッドの上にダイブした。



「うっ……うわぁぁぁ……っ!」



私の泣き叫ぶ声が、カーテンがしまったままの薄暗い部屋に響き渡った。

綾都にはもう、会えないんだ。


___婚約、したのに。


離れないって……約束したのに。



「うそつき……」


まるで私の感情が天気に表れたかのように、カーテンと窓の反対側の外で、激しく降る雨の音が聞こえた。