「のどかですね。空気も澄んでいて心地がいい」

「恐れ入ります」

 王都を出てから半月後。エレノアはレイとビルの他に10名ほどの騎士を連れてとある村を訪れていた。

 村の名は『ポップバーグ』、王都から馬車で一週間ほどのところにある小さな村だ。

 この地を治めるのはオスカー・ペンバートン伯爵。『領民あっての村、領民あっての街』との考えを根強く持つ民思いな領主として知られている。多忙な合間を縫って領民達と対話を重ね、時には大胆に、時には慎重に改革を行う。

 その甲斐もあってか彼が治める土地の税収は非常に安定しており、領民達が飢饉で苦しんだとの記録も残されていない。

 そんな卓抜した経営手腕を持つ彼であるためか、助言を求められることが多々ある。相手は他領の領主ないしそれに付随する人々だ。今日も今日とて前触れなく他領の領主に泣きつかれる始末。

 止むを得ず、村の案内はペンバートン家の老齢の家令が担うことに。無論、不満も不足もない。エレノアは農村の風景を堪能しつつ家令の説明に耳を傾ける。

「なるほど。この村のシンボルはポプラの木なのですね」

 村の所々には見上げるほどに背の高いポプラの木が植わっていた。秋真っ只中ということもあり、いずれも黄色く色付いている。

「はい。ポプラの花言葉が『勇気』『度胸』といった大変力強いものであったため、お選びになられたそうです。この村ではご先祖様方の思いを今に伝えるべく年に一度植樹を行っておりまして、その際には村人達と共にペンバートン家の当主、夫人、子息令嬢も加わり汗を流すのです」

「素敵なお話ですね――」

「ふっふっふ! アタシは分かっちゃってますよ? 本当のところは願掛けなんでしょ? 『勇者様が生まれますように!』って」

 話しに割って入ってきたのは小柄な少女だった。