安倍益材が家を飛び出して、はや十五年。家族には何の連絡もないまま、日々は過ぎていった。父親・益材の支離滅裂な論理に散々振り回されてきた息子の晴明は、父親たちがほざき続けてきた呪文のために、活力を失ってしまった日本を目の当たりに、うんざりしていた。晴明は、幼なじみの笛美とともに、未だこの国に閉塞感をもたらしている呪術を解析し、それを解くためのありとあらゆる手段を模索していた。

「また・・・・陰陽の軸が入れ替わろうとしているわ・・・・」
 笛美が読んでいた新聞をテーブルに置き、不穏そうな表情で言った。
「競争原理などと騒がれていた時代にブレーキがかかったようだな。これからどういった方向に世の中が動いていくのだろうか・・・・」
 リビングを歩いていた晴明が、右手をソファーにつきながら言った。
「私たちが見てきた時代だけでも、右上位が出てきたり、左上位が出てきたりしてるけど、結局のところこの国、何一つ変わってない。変わったと思っても、また元に戻っちゃうのよね」
「陽から陰へ、陰から陽へ。そしてまた陽から陰へ・・・・まさしく『歴史は繰り返す』だよ。繰り返すだけで、何の進歩もない」
 二人はため息をついた。
「マスコミは、日本人は画一的だの排他的だの罵るばかりで、そうなった原因を分析しようとしない。『寄らば大樹の陰』とか『郷に入っては郷に従え』とか、つまらない諺を持ち出して、帳尻合わせようとしているだけ」
 笛美は、安易な議論に終始するマスコミに対し、怒りが込み上げてきた。
「社会問題にしろ、外交問題にしろ、俺に言わせれば『陰陽説』によって引き起こされてるんだよ。全ての元凶と言っても過言ではない。だけど誰一人として、このことを指摘しようとしない。近代化して百年以上経ってるのに、誰も気付かないってのは、おかしいと思わないか?」
 晴明は不審に思った。
「気付かない訳ないでしょ。マスコミや知識人に、陰陽説に狂信的な連中が多い証拠よ。知ってても言わないだけ。陰陽説のカラクリをバラしたら、これ以上国民を騙し続けることができなくなっちゃうからね」
 笛美はそっけなく答えた。

 ・・・・話は、20年前に遡る・・・・