ドン!ドン!ピー!ピー!
「コッカがどーあるべきかー考えるナー!ジーブンがどーあるべきかー考エロー!!」
 左上位は、今日もまた、チンドン屋の格好をして街を歩きまわっていた。

 道行く人々は、彼らの愉快な姿を興味深そうに眺めていたが、それが政治活動だと気が付いた人はごく稀だった。おおかたは、近くの店の大安売りか何かだと思っていた。
 風変わりな活動家に出くわした人たちは、彼らのことを口々に噂していた。
 商店街を歩いていた青年二人も、この連中に興味津々だった。
「国家がどうあるべきか考えるな、自分がどうあるべきか考えろ・・・・分かりやすいなぁ」
「単純明快なフレーズほど、民衆を引き寄せるってわけだな」
「おい待てよ。こいつらの言ってること、どこかで聞いたことがあるぞ!」
「そう言えば確かに・・・・あっ!あれだ!!戦前のスローガンだ!!」
「帝国主義時代の日本政府が、国民を戦時体制に扇動するために使った言葉だ」
「こいつら・・・・そういう連中だったのか・・・・」
 民主的市民を装う左上位が発する、戦前のスローガンじみた言葉。その姿と言葉のギャップが、二人を硬直させていた。
「国民を侵略戦争に駆り立てた、実に恐ろしい言葉だ。“国家がどうあるべきか考えろ、自分がどうあるべきか考えるな”・・・・」

 ドン!ポコ!ポン!
「コッカがどーあるべきかー考えるナー!ジーブンがどーあるべきかー考エロー!!」

「いや違う!こいつらの言っていることは、まるっきり逆だ!国家と自分、この両者が正反対にひっくり返っている」
「戦前は、滅私奉公の精神で失敗した。だから、それを逆にひっくり返せば民主主義になるという発想だな・・・・」
「こいつらは、戦前のやり方を否定している。帝国主義者ではなさそうだ。かといって、民主主義と言うには抵抗がある。ならばいったい・・・・!?」