「そこでだ。早速だが晴明君、キミも”政治の呪術”にチャレンジだ。お手並み拝見だ」
 蘆屋が晴明に身を寄せながら催促した。
「しかし、まだやったことが・・・・」
 晴明が戸惑っていると、津宵が一枚の紙を渡しながら晴明に言った。
「ここに書いてあることを繰り返し言えばいいのよ。あとは晴明クンがいつもやっている通り。すべての日本人に対して言い聞かせるように、呪文を唱えてほしいの」
 晴明は津宵から紙を受け取ると、それを眺めた。
「”国家がどうあるべきか考えるな、自分がどうあるべきか考えろ”・・・・?」
 そこにはいかにも立派そうな呼びかけが書かれていた。しかし晴明は小学生。その文言に含まれる深い意味合いまでは理解することができなかった。
「分からなくてもいいんだよ。呪文を唱えてくれれば。さあさあ、外へ行こう」
 蘆屋が催促した。
 晴明たちは、すぐ近くにある空き地に出た。
「ここからなら、空も一面に見渡せる。呪文も広く伝わるだろう。さ、やってごらん」
 父親をはじめ、蘆屋、津宵が晴明の後ろから見守っている。
 晴明は両手を天にかざし、頭に日本の人々を思い浮かべ、繰り返し叫んだ。
「国家がどうあるべきか考えるな、自分がどうあるべきか考えろ。国家がどうあるべきか考えるな、自分がどうあるべきか考えろ。国家がどうあるべきか考えるな・・・・」
 呪文は何十回か繰り返された。晴明が疲れ果て息を切らせていると、蘆屋が晴明のもとに近づいてきた。
「よーし。そのくらいでいいだろう。キミはすべての日本人のために、いいことをしたんだよ。いいことをすると気持ちいいだろ」
「何も起こってないよ。いいことをしたって何のこと?」
 不思議なことを言う蘆屋に対し、晴明は尋ねた。
「そのうち分かるさ。キミは日本人のものの見方や考え方を変えることに協力してくれたんだ。楽しみだなぁ、な、津宵」
「ええ、楽しみだわ」
 喜ばしい表情で空き地から引き揚げる蘆屋に津宵、そして父親・益材の左上位一味に、晴明は首をかしげると同時に怪しさを感じた。