「晴明君、世の中には陽と陰があることは知っているよね」
 蘆屋は、晴明に問い掛けた。
「はい。プラスとマイナスのことですね」
 晴明は答えた。
「その通り。夏が過ぎれば秋が来て、やがて冬になる。冬が過ぎれば春が来て、やがて夏になる。この世には、陽と陰があり、これらが伸縮することによってバランスをとっている。陽が膨張すれば、やがて収縮し、陰に転じる。陰が膨張すれば、やがて収縮し、陽に転じる。これが陰陽説の法則だ」
 蘆屋は両手を大きく広げ、晴明に説明した。蘆屋は続けた。
「陰陽説というのは自然界のことだけを言っているのではない。たとえば晴明君。世間の人間はキミの考えや行動に対してあれこれ難癖をつけてくる。しかしキミはひとりの人間だ。自分の意思によって考えたり行動したりしている。”集団”という陰に対して、”個人”という陽。これも陰陽関係にあるんだ」
「ふぅ~ん」
 晴明はうなった。
「他にもいろいろある。”国家”という陰に対して”国民”という陽。”日本”という陰に対して”外国”という陽。ありとあらゆるところに陰陽関係は存在する」
「肝心なことを忘れているわ。”男”という陰に対して”女”という陽。これも陰陽関係にある。分かるかな、晴明クン」
 男勝りの津宵が、蘆屋の説明に口をはさんだ。
「と、とにかく、陰という障害に対して、陽はいかに立ち向かっていくべきか、我々はこうしたことを常に考えているんだ」
 態勢を立て直しながら蘆屋は言った。