皆進路が決まって、数少ない登校日。

いつもの皆と顔を合わせられるのも、あと数回だ。

何だか寂しくなる。

……私も、音大に進学する。

母のようにプロの音楽家になるか、はたまた音楽教師になるか。

音楽教師の道を選んではみたが、まだ少し迷いもある。

「おっはよー!
どうした琥珀(こはく)
顔が暗いぞー!」

私を元気づけるように、私の背中を思い切り叩くのは椎菜(しいな)だ。
椎菜の彼氏は学園で知らない人はいない、超有名人だ。

麗眞(れいま)

宝月(ほうづき)財閥の次期当主。
大学には進学せず、当主としての勉強を兼ねてカナダに留学するのだという。

お金持ちでイケメンで優しい。
彼女を溺愛しているとなれば、これ以上ない最高の彼氏だ。

……溺愛し過ぎているが。

さぞや、よろしくやっていたのだろう、椎菜のブラウスのボタンは上までしっかりと閉まっている。

「バレンタイン、どうしよう」

その言葉で、聡い彼女は私が浮かない顔をしていた理由を悟ったようだ。