両開きの巨大な黒い扉が見えてきた。あの扉の向こうが国王が待っている大広間だ——。
 大広間の手前には暖かい笑みを浮かべた使用人たちがずらりと並んでいた。
「ようこそ、太陽の王女さま!」
 丁寧に膝を折ってフウルに礼をする。
 フウルは、こんなにたくさんの人々に笑顔を向けられたことは今までに一度もない。
 ——なんて暖かい気持ちになるんだろう。
 心の中に人々の優しい気持ちが流れ込んできて、思わず泣きそうになってしまった。胸の奥がジーンとしてくる。
 ——だけどこれはわたくしのための笑顔じゃないんだわ。これは『お日様王女』のための笑顔なのよ⋯⋯。
 歓迎されればされるほど、自分が偽者だということを強く感じた。
 ——騙してしまってごめんなさい!
 心の中で謝りながら、うつむいて絨毯の上を進んでいく。両足が震えた。なんども転びそうになった。
 大広間には王侯貴族や大臣たちがおおぜい集まっていた。歓迎の拍手が起こる。
 ——ああ、ほんとうにごめんなさい!
 拍手の大きさに、ますますいたたまれなくなっていく。
 正面にきらびやかな王座があり、そこには国王が座っていた。
 ——リオ・ナバ王だ⋯⋯!
 顔を上げて王の顔を見る勇気はまったくなかった。大理石の床を見つめたまま、王座の足元にパッとひざまずく——。
「わたくしは偽者の花嫁です! どうぞわたくしを処刑してください!」
 ギュッと目を閉じて殺されるのを覚悟した。