けれどもなぜだろうか? 雨の中を歩いているのに、馬車の外の従者たちは上機嫌のようだった。明るい笑い声が聞こえるし、歌声まで聞こえてくる。
「きっとわたくしを『太陽の王女』だと信じているからみんな明るいのね。このままでは絶対にだめよ、やっぱりほんとうのことを言わなくては——」
 だけど言えば、残虐だと噂されるリオ・ナバ国王は怒り狂うかもしれない。
「そうだわ! わたくしの命と引き換えに許してもらいましょう!」
 自分の命にそんな価値はないことはわかっていた。だけどそれ以外の方法を思いつかなかった。
「戦争だけは止めてください、とお願いしよう——」
 そうすれば、もしかしたら戦争にならずにすむかもしれない。
 ——わたくしの命で償おう。わたくしを、処刑してもらおう。
 そう決心したときに、馬車が静かに止まった。
 すぐにミケールの明るい声が聞こえて馬車の扉が開く。
「さあ、つきました、王女さま」
「お、⋯⋯大きな、⋯⋯お城ですね⋯⋯」
 空に届くかと思われるほど巨大な黒い城だった。
 ラドリア国は軍力に優れていて、他国に傭兵を輸出しているほどらしい。
 黒い城はそんな軍事国家らしく、要塞のような頑丈な石造りだった。あちこちに銃口のための窓が作ってある。
 ナリスリア国の優雅な白い城とは正反対の雰囲気だ。
「大広間で陛下がお待ちです」
 笑顔のミケールが大きなアンブレラ(傘)を差し出してくれた。雨に濡れないようにという配慮だ。
 こういうふうに気をつかってもらったことは初めてなので、ますます緊張した。
「ありがとう——。だけどあなたたちも濡れないようにアンブレラに入ってください」
 自分の体を小さくしてミケールもアンブレラの中に入れると、ミケールは小鹿のような可愛い目を見開いて驚いた。
「王女さまは、とてもお優しいのですね」
 城の廊下にも金色の絨毯がひかれていた。歓迎のムードはいたるところに満ちていて、廊下の壁には花々が飾られ、どこからか華やかなファンファーレまで聞こえてくる。