「これにしよう」
「え? これを?」
 こんなに豪華な装いをしたことは生まれてから一度もないのだ。ナリスリア国でフウルに用意されていた服はどれも黒か灰色だった。
「でもわたくしは、あの⋯⋯」
 戸惑っていると、ミケールが、「さあ、こちらへどうぞ、王女さま!」と衝立ての後ろにうながした。
 引っ張られるままに連れて行かれ、あっという間に着替えが進んでいく。
 着替え終わると、ミケールに押し出されて衝立ての外へ——。
「ちょっと待って!」
 オメガ襟の巻き方がゆるいような気がした。このままでは首筋をリオ・ナバ王に見られてしまう。リボンをキュッと引き絞って、襟を整えた。
「そんなにきっちり巻かれるのですか? せっかくのお美しい首が見えなくなるのに⋯⋯」
 ミケールががっかりした顔をする。
「王女さまがそれがお好きなら仕方ないですね。陛下、王女さまのお着替えが終わりました!」
 衝立ての外へ出ると、リオ・ナバ王は、文机の前に長い足を組んで座っていた。手の中で羽ペンをクルクルと回している。
「なんと⋯⋯」
 フウルを見た瞬間、王は羽ぺんをポトリと床に落とした。ものすごく驚いた表情で、じーっとこっちを見つめてくる。
 ——きっと、すごくみっともないんだわ!
 そう思って顔がカッと熱くなった。慌てて衝立ての後ろに戻ろうとしたら、後ろにいたミケールとドンッとぶつかって、「失礼しました!」「ごめんね」とふたりであたふた⋯⋯。
「お似合いだ、とても美しい。——だが、王女の青い瞳にはこちらも似合うかもしれない」