塩混じりの雨のせいでこの国の植物を全滅させてしまうことが心配でたまらなかった。フウルは少し安心しながら寝台を下りる。
「陛下からプレゼントが届いていますよ、王女さま」
「プレゼント?」
「はい、素晴らしい品々でございます、どうぞご覧ください」
 ミケールがクローゼットを開けると、クローゼットの中にはぎっしりと服が並んでいた。明るい色のドレス、そしてそれにピッタリとあった色味の髪飾り。艶やかなシルクのふわふわとしたストールも何枚もある。
 オメガ襟まで用意してあって、どの襟も複雑な装飾が入ったとても美しい品だ。ルビーやエメラルドの宝玉が飾られた襟まである。
「これをわたくしに?」
「はい! 王女さまはどんな色がお好きですか?」
「好きな色は⋯⋯」
 好きな色はなんだろう? 黒っぽい服しか着たことがないので自分が好きな服の色がわからない。
 それに今日こそは処刑されるはずだった。
 処刑の日にふさわしい色は、たぶん明るい色ではないはず⋯⋯。
 クローゼットに並んでいる服はどれも明るい色ばかりだ。水色に緑、淡い桃色にレモンイエロー⋯⋯。処刑の日に着るには華やかすぎる⋯⋯。
「えっと⋯⋯、あの⋯⋯。もっと地味な黒っぽい色はないのかしら? 昨日わたくしが着ていた服はどこでしょう⋯⋯」
 寝室を見回したときだった。
「よく眠れたか?」
 魅力的な低音ボイスが聞こえてハッとする。