「いえ、あの⋯⋯。えっと⋯⋯、ゆっくりおやすみください、王女さま! 寝巻きにお着替えになるのをお手伝いしますね!」
 フウルには、ミケールの奇妙なようすを深く考える余裕はなかった。
 ミケールの手を借りて白いシルクの寝巻きに着替える。
 ——きっと明日か明後日には処刑されるのね。短い人生だったわ⋯⋯。楽しい思い出はひとつもなかったけれど、こうして最後に人の優しさに触れられてよかった⋯⋯。
 雨はますます激しさを増していた。ザーザーという耳障りな音がゴブラン織りの分厚いカーテンがかかった窓の向こうから聞こえてくる。
「わたくしのせいで、ひどい雨ね⋯⋯」
 このまま塩が混じった雨が降り続ければ、この国はますます草木の生えない土地になってしまう。はやくわたくしを処刑してもらわないと⋯⋯。
 暗い気持ちでカーテンを開けた。
 外は、いつの間にか日が沈み、なにも見えないほど真っ暗になっている。
 処刑——。
 それがどういうものかほんとうはあまりよくわからない。だけど間違いなく痛くて苦しいものに決まっていた。
 ——もうなにも考えるのはやめよう。
 大きなため息をついたときだった。
「陛下のおいでです!」
 ミケールがはつらつとした元気な声で叫んだ。
 ハッとして振り返ると、リオ・ナバ国王の笑顔が見えた。

続く