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「寝室?」
 寝室とはどういうことだろうか? 牢獄のことだろうか? たしかにすぐに処刑するには準備の時間が足らないだろうし、もしかすると処刑は明日の朝かもしれない。
 きっとこれから牢獄に入れられるんだ——。
 だけどそれは大きな間違いだった。
「こちらでございます、王女さま」
 赤毛の少年従者のミケールがニコニコ笑いながら案内してくれた部屋は、暖炉が赤々と燃える暖かな寝室だったからだ。
 部屋の隅にはマホガニーの文机がある。寝台は白いふわりとした布におおわれた天蓋付きでとても大きい。両開きの窓には分厚いゴブラン織りのクリーム色のカーテンがかかっていた。豪華な調度品と柔らかな色調の、とても居心地がいい部屋だ。
「お気に召しましたか? 王女さまのために、陛下がご用意されたお部屋です」
「だけど、あの⋯⋯」
 もしかすると、これもこの国の人々の慈悲の心ゆえなのだろうか? 処刑の前に、一晩だけ居心地のいい眠りを与えてもらえるんだろうか? きっとそうかもしれない。ほんとうになんて優しい人たちなんだろう⋯⋯。
 そう思いながら、オドオドと聞いてみた。
「⋯⋯あの、ミケール?」
「はい、王女さま——。なんでございましょう?」
「⋯⋯あの、わたくしはいつ処刑されるか、知っていたら教えて欲しいの。⋯⋯心の準備もあるし」
「え?」
 ミケールが可愛らしい子鹿のような目を丸くした。
「しょ、⋯⋯処刑は、もう少し後だと思います⋯⋯」
「もう少し後? やっぱりいろいろと準備が必要なのね。みなさんを騙したわたくしに、こんなに優しくしてくれて、ほんとうにありがとう」
 心からのお礼を言うと、ミケールは両手でパッと口を押さえて、モグモグと呟いたりしてとても慌てたようすだ。