頭の中は真っ白だった。心臓はドキドキと早鐘のように鳴っている。息をするのも苦しいほどだ。
「わ、わたくしは、陛下が待ち望んだ『太陽の王女』ではありません。わたくしは国民に嫌われている『雨降り王女』のフウルです。国を滅ぼす『ギフト』を持っている厄介者です。嘘をついて、ほんとうにもうしわけありません——」
 そのとき、人の気配を感じた。
 ハッとして顔を上げると、そこには——。
 月の光を受けて輝く砂漠の砂のような色の短い金髪の、とても背が高い男性がいた。
 ガラス細工のような透明な瞳をしている。不思議な色だった。瞳の中に吸い込まれてしまいそうな、透き通った色だ⋯⋯。
 シンプルだが手の込んだ刺繍が織り込まれた黒いフロックコート(長上着)を着ている。肩幅が広く、胸の筋肉はフロックコートがはち切れんばかりにたくましく盛り上がっている。
 顔立ちは驚くほど整っていて、動かなかったら彫像と見間違えていたかもしれない。
 フウルは自分の立場を束の間忘れて、その顔にボーッと見惚れた。
 まっすぐな男らしい眉の下の切れ長の目——。引き締まった唇に、男らしく力強い顎——。
 広間に集まった貴族たちが、
「陛下」
 と、いっせいに頭を下げたので、この男性がラドニア国のリオ・ナバ国王だとわかった。
 ——この方が陛下?
 醜いという噂はとんでもない間違いだったのだ。ラドニア国のアルファ国王は滅多にいないほどの美貌の持ち主だった。
「陛下——」
 慌てて頭を下げ、震える声で急いで繰り返した。
「ど⋯⋯、どうぞ偽者のわたくしを⋯⋯、わたくしを、すぐに処刑してください! 殺してください!」
 すると頭の上から、暖かさと優しさに満ちた魅力的な低い声が、ほんの少しだけ笑いを含んでこう言った。
「とりあえず——、落ち着こうか?」

続く