「だから、ここはこうなる」

「なるほど……」

私のノートの上に置かれた、矢吹さんのペンを持つ角ばった手を見つめてつぶやく。

「ん、今の絶対聞いてなかったでしょ?」

っ?!

突然、隣に座る矢吹さんが私の顔を覗き込んできながらそう言った。

学校から帰ってきて、矢吹さんのうちで勉強することになり、それからずっと触れ合っている肩に、心臓が飛び出るんじゃってくらいドキドキして全然収まってくれない。

そんな状況の中、顔を覗き込んできてさらに距離を縮めたりしてくるんだもん。

「ご、ごめんなさいっ」

きっと、矢吹さんの教え方はすごくうまい。
私がわかるまで同じところを何度も教えてくれるし。

それなのに、全然集中できてないのがすごく申し訳ないけれど、やっぱり、好きな人がこんなすぐ横にいる中で勉強するなんて、その方が難しいよ。

「緊張しすぎじゃない?あ、梓葉って、見られたらできないタイプ?」

「……いや、えっと……」

昨日だって、その前の勉強会だってそれなりに緊張してたけど、ここまでじゃなかった。

「いいよ。もっとリラックスして。勉強は間違えることが大事なんだ。ミスしたものって元々出来てるものより注意深く解くから、余計頭に入るの。だからたくさん間違った方が正解」

「あっ……は、はい!ありがとう、ございます」

すごいよ、矢吹さん。言わなくても私の気持ちわかっちゃうなんて。