「ありがとうございます。いただきます」

何を言われても、今目の前のこれが飲めることがすごく嬉しい。本当に美味しいんだ。

──ゴクン

「はぁ……美味しい。こんなの独り占めするなんてもったいないですよ」

「もったいなくないから。それに……俺が梓葉に飲ませたいと思ったの。だから梓葉だけでいいんだよ」

『梓葉だけ』そんなセリフにドキンと胸を鳴らせてしまったけど。
わかってる。
矢吹さんはこういうことを言って、女の子を喜ばすのが得意な人。

「『特別』ってことですか?」

「うん、そういうこと」

「……それって───」


♪〜♪〜♪〜♪

「あっ、すみません。電話」

『それって、どういう意味ですか』

そんな意味のない質問を、私のスマホの着信音が遮った。
きっと、意味なんてないのに。
こういうことを無意識にいっちゃう人だってわかっているのに。

「電話でな。それ飲んだら帰ってね。メモ忘れずに」

矢吹さんはそういうと、「俺風呂入るから」と言って、廊下に向かっていってしまった。

いっちゃった……。

携帯の画面には『ママ』の表示。

通話ボタンをタップして電話に出る。

「もしもしママ?どうしたの?」

『あ、うん。仕事終わって今帰るところなんだけど、必要なものある?買い物して帰るけど』

そっか。そろそろママやパパが帰ってくる。
家に戻らなくちゃ。

「大丈夫だよ。ご飯、温めて待ってるね」

私はままにそう言って電話を切ってから、残りのレモネードを飲み干して、矢吹さんの部屋を後にした。