「は、─梓葉、」

ん??

優しく身体を揺すられたかと思うと、何度も私の名前を呼ぶ声がする。

ゆっくりと瞼を開けると、

「梓葉、あ、起きた」

こっちをまっすぐ見てる、大好きな人。

「矢吹さん……嘘、私っ、」

だんだんと寝ぼけていた頭が働き出して、状況を理解した私は慌てて身体を起こす。

ここは……矢吹さんの車の中!

「うん。遊び疲れてぐっすりだったよ」

「……は、す、すみませんっ!」

ありえない。

ただでさえ矢吹さんに行きも帰りも運転させて大変なのに、矢吹さんの方がクタクタに決まっているのに、そんな彼の横で爆睡しちゃうなんて。

「全然。貴重な寝顔見せてもらったし」

「……っ、す、すみませんっ」

寝顔っ!そうか、矢吹さんに自分の寝顔を見られた、そう考えると、たちまち身体が熱くなる。

本当私ったらおバカだ……。

「CD渡すから、うち上がって」

そう言われて、私は矢吹さんと一緒に車を降りて彼の部屋に向かい、部屋に入って見慣れたソファに腰を下ろした。

テクテクとキッチンに向かっていく背中を追っていると、お湯を沸かし始めた。

お湯を沸かしている間、矢吹さんはカウンターの椅子に置いていた紙袋から、私からもらったマグカップを取り出して、キッチンに再び戻る。

あれ、早速使ってくれるのかな。
だとしたら、かなり嬉しいよ。