そして、2週間後。

ついに夏祭り。

俺は凛迎えに行き一緒に鳥居の前で待機中だ。

5分くらい待っていると竜の姿が見えた。

「お、凛ちゃん!早いじゃん!」

「えへへ。楽しみでつい早く来ちゃった!」

「そっか!俺も楽しみでさ、早めに来たんだよな!てか、凛ちゃん浴衣似合ってんな!めっちゃ可愛い!」

「ありがとう!ゆーくんもね、可愛いって似合ってるよって言ってくれたんだ!ね、ゆーくん!」

うん、と俺は笑顔で答えた。

「良かったな!」

声は明るいが表情はどこか切なげだった。

3人でしばらく喋っていいると、

おまたせ!と翔がやってきた。

その後ろから、おまた〜!と絢音が顔を出した。

「わぁ!絢ちゃんは今年も可愛い!」

「ありがとう!凛も可愛いよー!」

褒めあってキャッキャと盛り上がりだした。

「全員揃ったし、行こうぜ!」

竜の言葉を合図に鳥居を潜り屋台へ向かった!

「凛、食べたいのとか見たいのがあったら言えよ。寄るから。」

「うん!ありがとう、ゆーくん!」

凛は嬉しそうに笑った。

「なぁなぁ!りんご飴買おうぜ!祭りと言えばやっぱりんご飴だろ!」

「いいけど、お祭りと言えばりんご飴では無いね。」

「はぁ!?なんでだよ!雨乃一言余計だぞ!」

「へいへい。」

ヤイヤイと2人が言い合いをしている間に屋台に着いた。

「絢音、どれがいい?」

「私いちご飴!」

「すいません、りんご飴1つといちご飴1つとください。」

「あいよ!600円ね。」

「1000円で。」

「はい、お釣り400円ね。好きなの持ってて!」

「ありがとうございます。はい、絢音。」

「ありがとう、翔!」

そんな幸せそうな2人のやり取りを見ていた竜が、

ちらりと凛を見た。

「な、なぁ!凛ちゃんどれがいい?」

「え?私?私は、いちご飴!」

「よし!いちご飴な!すいません!いちご飴1つとりんご飴1つください!」

「え?竜くん?」

凛は戸惑っていたが竜は気にすることなく2つ飴を買って戻ってきた。

「ほい!いちご飴!」

「いいの?ありがとう、竜くん!」

凛は嬉しそうに笑った。

あーぁ。

それをするのはいつも俺だったのになぁ。

俺はもう、買ってやることすらも出来ない。

はぁ、やめだ。

そこまで考え俺は頭を振った。

今は楽しもう。

「ゆーくんどうしたの?」

「いや、なんでもねぇよ。」

俺はニコリと微笑んだ。

飴を食べ終えた俺たちはまた歩き出した。

「ねぇ、私あのくじやりたい!行こ!」

雨乃がそう言い向かい始めたとき、

ドン!

「わっ!」

「凛!」

急いで歩いていた男の人と凛がぶつかってしまった。

俺は急いで凛に近づいた。

「大丈夫か?怪我は?」

「大丈夫!ないよ!ごめんね。」

「謝らなくていいよ。よし、じゃ行くか…って、あ。」

立ち上がり振り返ると、雨乃も翔も竜もいなかった。

完全にはぐれてしまった。

「はぐれちゃったね。」

「そう、だな。2人で回るか?」

「うん!そうしよ!」

回っている間に見つかるだろう。

そう思い凛と2人で屋台を見回ることにした。

多分凛と来れる最後のお祭りだし、ちょっとくらいいいだろう。

「ゆーくん!私あれする!」

「どれ?って、ちょ、おい。」

凛は俺の手を引っ張りぐんぐんと歩き出した。

たどり着いた場所はくじ引きの屋台だった。

「すいません!1回お願いします!」

「はいよ、500円ね。」

何が当たるかな?と楽しそうな凛。

「何番だった?」

「うんとね、あ!5番だって!」

「5?どれそれ。」

「5番でした!」

凛は嬉しそうに店のおっさんに見せていた。

「おめでとう。そこのぬいぐるみだよ。」

「わーい!ありがとうございます!」

俺たちは店を後にした。

「なぁ、それ何?なんの猫?」

「ゆーくん知らないの?今、大人気の癒し猫だよ!」

い、癒し猫?なんじゃそりゃ。

聞いたことねぇし。

凛によると、トークアプリのスタンプキャラだそうだ。

4月頃に発売され人気が出たらしい。

そりゃ、俺知らねぇわな。

「ねぇ、ゆーくん!たこ焼き食べよ!」

「おー。」

俺たちはたこ焼きを買い、その後も色々とまわった。

ヨーヨー釣りをしたり、クレープ買ったり、輪投げしたり、

本当に色々だ。

「凛、あと15分くらいで花火始まるし、そろそろ川沿い向かうか?」

「うん、そうだね!あ、その前に御手洗行ってもいい?」

いいよと言い、俺たちはトイレへ向かった。

俺はトイレ前のベンチに座りここで待っていると伝えた。

5分ほど携帯と向き合っていると、

後ろから「ゆーくん…」

と凛の声がしたので振り返った。

が、凛の姿はなかった。

ん?空耳か?

そう思いながらも、ふと屋台の明かりの方へ目をやると、

1人の女が無理やり男に連れていかれるのが目に入った。

凛?

あの簪…間違いなく凛だ。

凛は今日、俺があげた簪をしていた。

それが見えたおかげで凛だと気づいた。

ここのトイレはあまり人が使わない。

今だって誰もいなかった。

俺と凛だけだった。

もっと人の多いトイレへ連れていけばよかった。

俺は必死に追いかけた。

だが、人が多いため追いつけない。

なんなら、見失いかけている。

しばらく走っていると、

凛と見知らぬ男達は人気のない道へ逸れた。

これなら助けられる!

1歩踏み出そうとして俺はやめた。

無理じゃん。

凛は必死に抵抗していた。

「やめてください!なんなんですか!」

「なんだよ、いいじゃねぇかよ。俺らと楽しいことして遊ぼうぜ?な?」

きゃははと男達は楽しそうに笑っていた。

くっそ!

「私、彼氏と来てるので結構です!」

「居たって別にいいじゃん」

は?いい訳ねぇだろ!

誰か…頼む。

凛を助けてくれ。

俺は木の影から祈ることしか出来なかった。

「抵抗してんじゃねぇよ!」

そう言い1人の男が凛の腕をさらに強く握った。

その瞬間、後ろにいた男2人が吹っ飛んだ。

竜だ。

そう、竜が2人を蹴飛ばしたのだ。

「おい。てめぇらよ、凛ちゃんに何してんだ。」

助かった。

俺はほっとした。

ほっとしたのもつかの間、凛を掴んでいた男が竜に殴りかかった。

「なんだテメェ!」

すると、仲間の男がやめとけ!と止めに入った。

なんだ?

「なんで止めんだよ!?」

「こいつに喧嘩売らねぇ方がいいって。竜って、あんた野崎竜じゃねぇの?」

「は?そうだけど。だったら何?」

それを聞いた男達はヒィ!と声を上げ、すみませんでした!とダッシュで逃げだした。

まぁ、そなるわな。

竜は、中学のときかなりやんちゃをしていたらしく、

高校へ入ってからもよく色んなやつを

気に入らねぇとか言う理由でしめていた。

ま、俺もやってたんだけどさ。

だから、俺たちを知らない奴なんてほとんど居なかった。

「凛ちゃん!大丈夫か?ごめんな、遅くなって。」

「竜くん…ありがとう。」

俺がこんなじゃなかったら、助けていたのは俺だったのにな。

ヨシヨシと凛を撫でる竜が羨ましかった。

「…凛。大丈夫か?ごめんな。」

「ゆーくん!知らない男の人に連れていかれて怖かったの…でも、竜くんが…助けてくれた…うぅ…ひくっ。」

「…そうか。ありがとな、竜。」

俺は凛を抱きしめた。

-ヒュ~!ドン!-

それと同時に花火が上がった。

「あ、始まっちまったな。」

「ほんとだ!」

「凛ちゃん、俺達も川沿い行こうぜ!翔達が心配してる!」

「そうだね!ゆーくん行こ!」

「あぁ。」

俺たちは急いで川沿いへ向かった。

川沿い付近に来るとかなり人が増えた。

凛と離れないよう、もう怖い思いをさせないようぎゅっと強く手を握った。

「おーい!お二人さんこっちこっち!」

翔が手招きをしていた。

「凛!ごめんね!大丈夫だった?」

「うん!大丈夫だよ!私もごめんね!」

「じゃ、花火見ようか。」

翔はニコリと笑った。

俺たちは土手に座り花火楽しんだ。

綺麗だ。

俺はちらりと凛をみた。

凛はキラキラとした目で嬉しそうに花火を見ていた。

俺は泣きそうだった。

来年も一緒が良かったな。

ずっと隣で花火…見たかったな。

「…凛。」

俺は切なくて名前を呼んだ。

聞こえたようで、ん?とこちらを向いた。

離したくない。

俺は凛が大好きだ。

-ドン!-

1番大きな花火が上がった。

それと同時に俺は凛にキスをした。

「…へ?ゆーくん?」

暗くて表情は分からないが照れているようだった。

「ごめん。急に。」

「ううん!嬉しかった…へへ。」

凛はほんとずりぃな。

俺たちは手を繋ぎ最後まで花火を楽しんだ。

最高の夏休みだ。

俺の最後の夏。

幸せだったよ。

ありがとな、お前ら。

最高のダチだよ。

こうして俺の最後の夏は幕を閉じた。